令和元年7月1日より、呼吸器外科は外科の診療部門から、新たな診療科として専門医2名の新体制となりました。あらためて、特色と治療対象疾患をご紹介します。
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スタッフ紹介
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名前
穴見 洋一(あなみ よういち)
職名
呼吸器外科部長
学歴等
平成3年佐賀医科大学卒 医学博士
認定医
日本外科学会
専門医
日本外科学会 日本呼吸器外科学会
名前
牧野 崇(まきの たかし)
職名
呼吸器外科副部長
学歴等
平成16年東邦大学卒 医学博士
認定医
日本がん治療認定医 肺がんCT検診認定医
専門医
日本外科学会専門医 日本呼吸器外科学会専門医
日本呼吸器内視鏡専門医
指導医
日本外科学会指導医
その他
日本呼吸器外科学会評議員 臨床研修指導医
小児慢性特定疾病指定医
身体障害者福祉法第15条指定医(呼吸器機能障害の診断)
厚生労働省 がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了
全日本病院協会 看護師特定行為研修指導者講習会修了
臨床研修協議会 プログラム責任者養成講習会修了
(令和4年1月1日現在)
特色
呼吸器外科とは心臓と乳房以外の胸部の疾患に対して外科治療を中心として対応する診療科です。当院では、2010年に私が呼吸器外科を担当してから、治療が始まりました。対象とする疾患はⅰ)肺がん、ⅱ)気胸などの肺のう胞性疾患、ⅲ)縦隔腫瘍、ⅳ)悪性胸膜中皮腫、ⅴ)胸部外傷、ⅵ)肺・気管支の先天異常、など多岐にわたります。以下に代表的な疾患であるⅰ)-ⅳ)についてご説明します。
ⅰ)肺がん
2007年の統計によると、日本でがんで死亡した人は約33万6千人で、肺がんによる死亡者数は約6万6千人(男性約4万8千人、女性約1万8千人)であり、男女ともにがん死亡原因の第1位です(男性24%、女性13%)(1)。先進国のなかでも喫煙率の高い日本では、人口の高齢化もあって、今後も増加することが予想されています。肺がんはかなり進行するまで症状が現れないことも少なくなく、肺がん患者さんの実に4~6割は、初診時にすでに手術不能な状態です。一方、近年CTの発達に伴い径2㎝以下のスリガラス様陰影を主体とした小型肺がんが肺野末梢に多数発見されるようになりました(2)。このタイプの肺がんはその多くが殆ど腺がんで根治切除後の
* 5年生存率はほぼ100%近くあり、いわゆる肺の早期がんに相当すると考えられています(3-6)。一般的に肺がんでは外科切除が抗がん剤や放射線治療よりも根治性が高いため、「切除できるうちは切除する」ことが第一選択とされています。手術は
** 肺葉切除+
*** リンパ節郭清が標準的術式です。「切除できるうち」かどうかは肺がんの進行度と肺機能とで判断されます。肺がんの外科治療を考えたとき、肺がんの治療成績向上のためには如何に早期に肺がんを発見するかということともに、進行がんを如何に適切に治療するかも重要なポイントとなってきます。つまり、肺がんの治療に際しては早期の肺がんと進行がんとに分けて対応する必要があります。
早期の肺がん: 2010年の肺がん取り扱い規約・改定第7版(7)により、肺における
**** 上皮内がんとしてBronchioloalveolar cell carcinoma
(細気管支肺胞上皮がん)が定義され、初めて肺の早期がんの概念が提唱されます。近年では胸腔鏡という内視鏡を用いて、小さな傷で肺機能を温存するような低侵襲の外科手術が普及しつつあります。CT
で発見されるようなスリガラス陰影を主体とした末梢小型肺がんは切除成績からみるといわゆる非浸潤がん/早期がんである可能性が高いので(2-6)、従来の大きく開胸しての肺葉切除+リンパ節郭清ではなく
***** 区域切除+/-リンパ節郭清、または部分切除のみの治療法が現在検討されています。つまり積極的に傷を小さくして、肺機能を温存する治療法です。当科では適応のある末梢小型肺がん症例では積極的に胸腔鏡を用いた区域切除+/-リンパ節郭清を行っています。
進行肺がん: 一方、進行がんでは抗がん剤治療が中心となり、はじめに抗がん剤治療や放射線治療を行い、肺がんを小さくした後に切除する集学的治療も行われ始めています。近年、イレッサをはじめとする数多くの分子標的治療薬が開発されており、これら新薬による治療後に手術を行うことも始まってくると思われます。このように治療法は近年大きく進歩し、手術適応も広がっています。さらに、区域切除の手技・安全性の向上と胸腔鏡を用いて開胸創を小さくすることで、低肺機能の患者さんにも従来よりも手術適応が広がってきています。当科では低肺機能の患者さんの肺がん切除に積極的に取り組んでいます。
さて、肺がんの治療成績は、リンパ節転移のない小型の肺がん(前述のスリガラス様陰影主体の肺がんではない場合)でも切除後の5年生存率は早期胃がんと異なり、約80%前後にとどまります。この理由はリンパ節郭清が不十分なためにがんの取り残しがあったり、「リンパ節転移がない」と誤診されるため術後の治療が不十分だったりして治療成績が劣るのではないかと推測しています。当科での肺がん切除は、積極的に胸腔胸を用いた肺葉切除+リンパ節郭清手術を行っていますが、リンパ節の取り残しがないよう必要かつ十分なリンパ節郭清を徹底して行っています。進行肺がんの治療では、当院では呼吸器内科のスタッフも充実していますので、内科の先生方との協力の下、手術を組み合わせた積極的な集学的治療を行うことが可能です。
このように当科では早期がんの場合や、進行がんであっても、低肺機能であっても、患者さんの肺機能や肺がんの進行度にあわせた適切な治療を積極的に行っております。安心して当院・当科を受診されてください。
* 5年生存率:治療を受けた患者さんが治療後5年経過後に生存している割合。
** 肺葉切除:
右肺は上葉、中葉、下葉の3つの肺葉から、左肺は上葉、下葉の2葉からなる。このうち肺がんが存在する肺葉を切除すること。
*** リンパ節郭清:
リンパ節は気管・気管支の周囲の脂肪の中に存在するが、郭清とはリンパ節のみを切除するのではなく周りの脂肪ごとひとまとめにして気管・気管支から剥がし切除すること。
**** 上皮内がん:
肺胞の表面の細胞の下の基底膜を破って浸潤していないがん。粘膜内に限局してとどまっているがん。いわゆる非浸潤がんのひとつ。
***** 区域切除:
肺葉は気管支の分岐によって区域というさらに小さい区分に分けられる。がんが存在する区域を選択的に切除すること。肺葉内のほかの区域は温存される。
ⅱ)気胸などの肺のう胞性疾患
気胸とは肺にできたブラやブレブと呼ばれるのう胞が破れて肺から空気が漏れて、胸郭の中に空気がたまり、そのために肺が押しつぶされる状態です。気胸は発症年齢に二つのピークがあります。ひとつは20歳前後の若い男性、もう一群は喫煙を続けた70歳以上の高齢男性です。肺のつぶれかたが大きかったり、両方の肺に同時に起こると命の危険があります。症状として、急な胸の痛みや呼吸困難感を伴うことが多いので、症状があればすぐに医療機関を受診してください。当院では緊急入院への対応も整っておりますので、医療機関の先生方も積極的にご連絡ください。また、女性の場合、月経に伴って気胸を繰り返す月経随伴性気胸という病態があります。この病気は、子宮内膜組織が何らかの原因で胸腔内に入り込み、月経周期にあわせて脱落するため肺が破れるために起こります。治療は胸腔鏡を用いたごく小さな傷での手術を行っています。迷入した子宮内膜と破れた肺を部分切除します。その後、再発防止のため産婦人科と協力の上、ホルモン剤を内服したりする場合があります。女性の方で生理にあわせて胸の痛みなどを感じられている方は、症状のあるときに呼吸器科を受診され、レントゲンを撮られることをお勧めします。
そのほか、肺炎を繰り返す方や風邪を引くたびに発熱が長引き汚い痰が出続ける方は、気管支閉鎖症や肺分画症といった気管支や肺の構造異常による病気の場合がありますので、症状のある時に呼吸器科を受診されることをお勧めします。
当呼吸器外科は診療を始めたばかりですが、今後も地域医療に貢献できるよう、患者さんに安全で信頼に耐えうる診療科を築いていく所存ですので、どうぞお気軽に当院・当科を受診されてください。
ⅲ)縦隔腫瘍
縦隔とは左右の肺に挟まれた、心臓、大血管や気管がある空間にできた腫瘍の総称です。そのため縦隔腫瘍は心臓や大血管の影に隠れてレントゲン写真では発見が難しく、かなり大きくなってから症状を伴って発見される場合もあります。診断には胸部CT検査が必要です。また、縦隔腫瘍は縦隔という場所にできた腫瘍の総称であるため、悪性腫瘍の場合もあれば良性腫瘍の場合もあります。手術で切除するまで確定診断ができないため、治療は手術による切除が第一選択となります。また、重症筋無力症という疾患の場合、例え腫瘍がなくても縦隔内の脂肪組織を切除することが重症筋無力症の症状の改善に大きく寄与する場合がありますので、外科手術の適応となります。一般的に縦隔腫瘍の手術では胸骨縦切開という方法が選択されます。しかし、CT
やMRI
検査で術前に良性腫瘍の可能性がかなり高いと診断される場合もありますので、当院では良性腫瘍の可能性が高い場合には、胸骨を切ることなく、胸腔鏡を用いて可及的に小さい傷での切除を行っています。
ⅳ)悪性胸膜中皮腫
悪性胸膜中皮腫はアスベスト暴露歴のある患者さんに、暴露から数十年たって発症することがある、予後の不良な腫瘍です。
参考文献
2005年のがん統計:国立がんセンターがん対策情報センター
穴見洋一:MOOK 2007~2008 肺癌の臨床:2007, p21-26, 59-64:篠原出版新社
Noguchi M, Morikawa A, Kawasaki M, et al. Small adenocarcinoma of the lung. Histologic
characteristics and prognosis. Cancer. 1995; 75: p2844‐2852
Anami Y, Ishiyama M, Noguchi M, et al. Bronchioloalveolar carcinoma component is a more
useful prognostic factor than lymph node metastasis. JTO. 2009; 4(8): p591-598
Little AG, Gay EG, Gaspar LE, et al.: National survey of non-small cell lung cancer in
the United States: epidemiology, pathology and patterns of care. Lung Cancer. 2007;
57(3): 253-60.
Leitzmann MF, Koebnick C, Abnet CC,et al.: Prospective study of physical activity and
lung cancer by histologic type in current, former, and never smokers. Am J
Epidemiol. 2009 Mar 1;169(5): 542-53
肺癌取り扱い規約【改定第7版】:日本肺癌学会 2010年11月刊行予
検診 の研究
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